十三冊目【武器になる哲学】

【武器になる哲学】

著者 山口 周

出版社 KADOKAWA


「転機」というのは「何かが始まる」ということではなく、むしろ「何かが終わる」時期なのですが、多くの人は「開始」にばかり注目して、何を終わらせたのかという「終焉の問い」にしっかり向き合わないのです。


読み始めて気がついたのですが、先日感想を書いた「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」と、同じ著者の方が書かれた本でした。前作と同様に、ビジネスパーソン向けの本で、普段、哲学と触れる機会の少ないであろう読者向けに書かれているので、とても分かり易い内容の本でした。「哲学入門」といったタイトルの本は、もう何十冊と読んできましたが、「哲学を生活やビジネスに活かしたい」と思っている方にちょうどい本だと感じました。本書の特徴は、哲学・思想のキーコンセプト【エポケー】【ブリコラージュ】【無知の地】等をひとつづつ取り上げ、「アウトプットの学び」「プロセスの学び」をあげているところにあります。


哲学に興味を持った人が一番につまづくのが、「そんなことは当たり前だろ」と感じてしまうところにあります。古代ギリシャの哲学者が唱えた説は、現代人の我々にとっては当たり前か、すでに馬鹿げてると証明された説かのどちらかしかないのです。例えば「地球は丸い」ことを、我々は実際に宇宙から映像を見て知っています。そのため「地球は丸い」という言葉から学べることは、ほぼありません。しかし、そのようなことを確認する方法がなく、また「地球が宇宙の中心だ」という地動説が常識だった時代において、コペルニクスが天動説という考えに至ったプロセスには、現代においても多くの学びや示唆に富んだ意味を教えてくれるのです。


哲学なんて知らなくても生きていける。多くの人はそう考えています。しかし、どのような社会であっても、その社会を動かす原理やシステムが存在します。それは、パソコンのOSのようなものです。そして、我々はおおきな転換期を生きています。ブロックチェーンのような革新的な仕組みは社会のOSそのものを変えてしまう力があります。哲学・思想を知るということはそのOSの仕組みや長所短所を判断する力になります。なぜかといえば、どれほど優れた仕組みでも、人間が開発、運用する以上は、過去のシステムと相違点のないシステムというものは、まず生まれ得ないからです。


多くの革新的アイデアは、「過去のシステムの発展的な回帰」としてあらわれます。その時過去の思想や流れを知っていれば、そのシステムの弱点にも気がつくことができます。また、その過去のシステムがどのように推移していったっかという点を知ることができたら、革新的アイデアの未来予測にも役立ちます。


人間は案外シンプルな生き物です。使う道具はどんどん進化していますが、思想の面では古代ギリシャの哲学者からも学ぶことができます。「学ぶ」ということに日々眼をむけていたら、身近なところに発見や学びはあります。ミルが自由論で指摘しているように、「ひとつのテーマを完全に理解するためには、様々に異なる意見をすべて聞き、あらゆる視点から、そのテーマについて調べつくすことが必要だ」ということなのだと思います。当たり前だろ。と思っていることにも、その過程には多くの学びがあります。それは、子供に「なんで?」としつこく聞かれた時に、大人のほうが「確かになんでだ?」と考え込んでしまう経験としてあわられます。ほんとうに「分かる」ということは「分かることで自分自身が変わる」ということです。「知ってる」と「分かる」は異なります。そのような経験は大人になるとどうしても少なくなります。だけど、そのような自分が変わる経験を重ねることが学ぶということの本質ではないでしょうか?

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