「誰が作ったものでしょう」
言葉を紡ぎたい
力強い言葉でなく
この不完全な世界の
美しい瞬間を
そのまま…不完全なまま…
もう少しの間ここにとどめるための
柔らかで頼りのない言葉を紡ぎたい
言葉はとても力があるから
簡単に人を欺く
でもその前に自分自身を欺くことを
多くの人は気にせず生きている
気にせず生きていけるのだ
現代はとても豊かだから
それでも知らず知らずの内に
言葉は自分の中にたまっていく
健康的で偽りのないたべものを
欲するのと同じように
健康的で偽りのない言葉を
本当は胸いっぱいに吸い込みたいのに…
身体を動かすのに必要なのは
口から取り込むカロリーだけでない
両の眼、両の耳
両の手、両の足から
たしかな実感として
受け止めたその記憶が
心と身体を繋いで
他者と自分を繋ぐ言語になってくのだ
だから
この言葉も
あの言葉も
ぼくが考えたものではない
あの人の生き様も
あの人の迷いも苦しみも
あの人だけのものではない
多くの人は
汚れた水を清らかにしなければと
口々にそう言うけれど
綺麗で澄んだ水には
多くの生き物は住めない
そして泥の底から蓮が咲くことを
ぼくらはちゃんと知っている
この世はいつも混沌として
ぼくらの居場所はまるでないようだけど
涙が出てしまうほど
楽しい思い出や
悲しくて悲しくてやるせない思い出が
確かにここに立っていることを
確かな感覚として教えてくれる
世界はいつも声なき声で
ここにいてもいいのだと
応えてくれている
それに気付けない時も
焦ることはない
それは失ったのではなく
ただ見失っているだけなのだから
美しい言葉
美しい器
美しい建物
美しい食べ物
そして
愛する人のために
…言葉を紡ぎたい
力強い言葉でなく
この不完全な世界の
美しい瞬間を
そのまま…不完全なまま…
もう少しの間ここにとどめるための
柔らかで頼りのない言葉をぼくは紡ぎたい。
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