No05: ジャー…ザッザッザッ。

「レトロなキッチンですね」と言われると僕はいつも言いなおす。

「レトロな台所ですよ」と、ここはキッチンでなく台所だ。

最初から台所を作りたいと思っていた。

佳子さんからの要望は「見えない収納はいらない」だった。

引きだしがあるから、その中がごちゃごちゃになるということだった。

(実際はあってもなくてもごちゃごちゃになったけど、それも愛嬌だ)

大工さんに木で枠を作ってもらって、シンクをはめただけのシンプルな台所。

高機能のものに対する憧れがないわけではないけど

いまの僕らにはこれで十分だと思う。

台所から聴こえる音…ジャー…ザッザッザッ。とリズミカル。

拙い僕らの生活も、回数を重ねることで手馴れてきたこの米とぎの音のように

いつか誰かの心に心地よいリズムを刻むのだろう。





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