11月 巡り巡る。
随分前から、我が家の洗面所の壁に貼られている一枚の写真があった。
写真といっても原板ではなく印刷の切り取りだ。
諏訪のマスヤゲストハウスに泊まった時に貰った、写真展のDMの切り抜き。
波紋と光がきらめく写真は
気がつけば僕らの日常の景色になっていた。
切り抜いてしまったから、誰が撮影したか分からなかくなった写真。
時折、話が出た。写真を撮ってもらうならあの人がいいね。
佳子はその度、僕に告げた。
きっと物語がある写真を撮る人だと思うんだよね。
つい先日、友人が紹介してくれた一人の写真家さんがいた。
共通の友人も多く、なんてことない話から大いに盛り上がった。
感じていることにも、活動の理念にも心から共感を感じた。
よかったら、今度東京で個展をするのでDMを置かせてください。

そう言って彼女が差し出した印刷された写真を見て、佳子はこう言った。
もしかして・・違うかもしれないけど、家にずっと貼ってある写真があって・・見てもらえませんか?
その場にいたみんなが驚いたことに、それは、間違いなく彼女が数年前に行った展示会のDMだった。
何気ない風景の写真だ。特徴なんてまるでない。それでも佳子には分かった。
紙の質感、写真の表情から、それが彼女の写真だと。
長く壁に貼られて色あせた写真を、彼女は大切そうにカメラに収めた。
僕らの生活は毎日平凡だけど
時折こういう出逢いがやってくることを知っている。
だから、やるせない毎日も
不安で押しつぶされそうな時も
それはそのままでいいのだと。
そう思える。
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