「肝臓と限られた道具の話。」
「なんか朝倉さんは、町の肝臓って感じだね。」
先週までの二人展の会期中、大久保さんにそんなことを言われました。町は身体と似ている。そんな会話をしている時に、ぽろっと出た言葉でした。
町作りについて考える時、「町を身体と捉えると分かりやすい」というのは、どこかで読んだ論ですが、一理あるように思います。全体を俯瞰し、未来の予測を立て、適正な人材を配置していくのは「脳」の役割です。しかし、脳が正常に機能する為には「心臓」が血液を送り続ける必要性があります。そして「胃」や「腸」が正常に機能することで「心臓」を動かす為の血液を製造できます。町作りにおいて必要なのは「脳」の役割を担う司令塔だけではありません。それが正常に働く為には他の臓器との「良好な関係性」が重要なのです。
現代は、デザイナーや編集者の仕事が地域作りの為には必要不可欠だということは、周知されています。彼らの役割は、町の「脳」としての機能です。過去と未来を俯瞰して見て、時代に合う形で永続的な活動をすることを求められるのが「脳」の役割を任された人々の仕事です。
それでは自分はどのような役割で町の中で暮らしたいかと言えば、それは「肝臓」のような機能です。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれます。かっこいいじゃないですか、寡黙に身体を支える肝臓。「みなにでくのぼうと呼ばれ、ほめられもせず、くにもされず」といったイメージでしょうか。
さて、肝臓には以下の3つの機能があります
1.代謝
2.解毒作用
3.胆汁の生成・分泌
それぞれについて詳しく書いていきます。
1.「代謝」
人間は食物からの栄養をそのまま利用することができません。肝臓は胃や腸で分解、吸収された栄養素を利用しやすい物質に変えて貯蔵する器官です。そして必要に応じて、それらを分解してエネルギーを作り出します。これを町の機能に当てはめると、「分配」する人と言えるかもしれません。地方の栄養ともいえる様々な要素の多くは、そのままでは利用することは出来ません。それらを分解し、適正な場所や人材にエネルギーとして割り振る人物が必要です。
2.「解毒作用」
肝臓は、私たちが摂取した物質(アルコールや薬剤など)や代謝の際に生じた体に有害な物質を、毒性の低い物質に変え、尿や胆汁中に排泄するという解毒作用を持っています。町の機能としての肝臓も、その機能低下すると解毒が追いつかなくなります。肝臓は表舞台には、けして立ちませんが、影で毒素を解毒する地域を支えている要の存在なのです。
3.「胆汁(たんじゅう)」
胆汁は、肝臓の中で常に分泌されている物質であり、主に脂肪の乳化とタンパク質を分解しやすくする働きがあります。この働きによって脂肪が腸から吸収されやすくなります。また、コレステロールを体外に排出する際にも必要な物質です。都市部からやってくる「豊かさ」という分かりやすい旨みから町を守るのも肝臓の役割です。
肝臓は、町という営みの中においても、「沈黙の臓器」としての機能を任されえています。僕がそうありたいと願う人物像もまた、身体における肝臓と近い働きをする人物です。それは、けして目立たず、陰ながら身体としての町を支える役割を背負う人のことです。大久保さんの言葉が妙に腑に落ちた…あ、肝臓は五臓のほうですね。なんか残念。
「限られた道具を使うことで、かえって自由なものづくりが出来るんです。」
小島優さんが懇親会で話してくれたお話です。すごく印象に残った話でした。素人考えでは、道具が新しく、揃っているほど、多くの仕事が出来るように思いますが、僕らが普段お会いしてお話させていただく作り手の皆さんは、口をそろえて同じことを言います。「道具は限られているほうが自由だ」と、道具が増えると確かに便利になりますが、機械の出来るのみに仕事が限られてしまい、地頭をつかって「工夫」をすることの余地がなくなってしまいます。不自由であることで自由になる。頭ではわかっていても、なかなか理解できないことです。制約があるからこそ、独創的な閃きや、環境に即したもの作りが可能になります。材料も、機械も、どこでも同じものが用意されていたら、そこに独創の余地はありません。民藝においても、異なる地域で様々な仕事が産まれた背景には「制約」があったのは間違いありません。現代は極めて自由な時代で、「制約」からも開放されています。しかし、だからこそ、限られた環境に身をおくことで見えてくる世界もあると、僕は思います。飛騨の山奥の僕らの営みもまた、様々な制約があるからこそ、喜びや楽しみを実感できる暮らしであると思います。
「限られた環境でこそ、人は創造的になる。」これはもの作りだけでなく、人生にも通ずる教訓だと思います。
…二人展を終えて一週間、僕が繰り返し考えていたのは、「肝臓と限られた道具の話」でした。なにを持って会の成功を図るのか、ということを考えた時、このようにあたらしい発見があることが、自分にとって大切なんだな。ということを改めて感じました。来年はどのような出会いがあるのでしょう。いまから楽しみです。
会期中遊びに来てくださった皆様、そして在店してくださったお二人に感謝いたします!
ありがとうございました!
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