No40:しくしく。
当たり前のことを続けるのはむずかしい。
行きつけにしてたとんかつ屋さんが閉店した。
最後の日。
おかみさんは慣れた手つきで看板を「閉店」に返して、暖簾を下ろした。
見ているこちらがあっけにとられるくらい、自然な所作だった。
何十年か後、ぼくらがこの店を閉めるとき
あんなふうに当たり前の一日が終わるように
閉められるだろうか…そう思った。
ぼくらはきっとしくしくと泣いて
しばらくぬけがらになるだろう。
35年の歴史に幕をひく瞬間を目にしたあの時
最後の日も、なんでもない今日も
同じあたりまえの一日なんだということを教わった。
おかみさんもおやじさんも
毎日同じように支度をして、片付けて…支度して…
繰り返してきたんだろう。
本当の気持ちはわからない
けど、ぼくはあの瞬間
なにげない一日の大切さと
一生とはそういう普通なものなんだということを
教わったような気がした。
ぼくはまだ、普通であることを怖がっている
だけど、ぼくらは特別になりたいのではなく
いまよりほんの少しいい当たり前を
同じように見えても、ほんのすこしだけ
いい当たり前を目指している。
「ちょうどいい」が一番むずかしい
「ちょうどいい」が一番いいと、ぼくは思う。
0コメント