貧しさを知らない

待ち人を待つあいだ、あてもなく街並みを歩いた。どこの角を曲がっても人がいる。皆、働いている。


懸命に生きている命が、ダンボールと共に路地に溢れでている。失ったと思い込んでいる多くのものが、ただ見失われたまま、あの頃のままあの頃より少しくたびれた様子で佇んでいる。そこに確かにあるものは、見えない人には見えないらしい。

それは魅せようとすると、するり手のひらから滑り落ちる。「大切です。」そう伝えた瞬間、照れ臭そうに、訝しそうに路地の裏にたち消えてしまう。文化は作るものではなく、そこに産まれそこで死んでいく一瞬の名もなき営みだ。僕らに託されているのは、いたずらになにかを生み出すのではなく、今まさにたち消えんとしている、取るに足らないそれらをきちんと看取ることではないだろうか?


荘厳での簡素でもなく、日常に連なる当たり前のものとして、悪しき習慣はただし、良き慣習を尊び、自分と友人と家族の生きる現代の「生活の柄」として引き受けることだと思う。僕らにわかることなんて、本当はなんにもわからないという、確かな事実以外にないのだから。

もがりの時間が今の世には足りない。

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